ビデオアートプログラムA第54回 : ガブリエル・ル・バイヨン


上映作品について

作品タイトルの《Tender Pastures(テンダー・パスチャーズ)》はアイルランド出身の劇作家・小説家であるサミュエル・ベケットの『モロイ』からの一節です。
平坦な風景の中、一人の男性が立っており、男性が語る声と、ふしぎな音がしずかに響きます。ドラマは何も起こらず、6分間の映像中に3回、画面が暗転しフランス語の単語が現れる、それだけです。ただし、ル・バイヨンは映像と語りの一体性にさまざまなくさびを打ち込み、小さなひび割れをつくっていきます。そして訪れる最初の暗転で、映像と語りの一体性はついに決壊したのです。ここに来て私たちは、よりよく見ることが可能になります。それはモロイが語り、ル・バイヨンが引用するような「目ばかりでなく、内部、けっして見ることのできない内部の空間、脳や心や、そのほか、感情や思想が乱痴気騒ぎをするいろいろな洞穴、そうしたもののすべてがすっかり別の気分になってながめること」のできる瞬間の到来であり、何もない広大な野原の向こう側、何も起こらない平凡な日常の底に襞のように折り重なる何かを見る可能性が開かれることを意味します。

ガブリエル・ル・バイヨン

1981年フランス、パリ生まれ、同地在住。
映像作品を制作発表するだけでなく、写真や執筆も精力的に手がけ、政治的アイデンティティ、神話、風景史論間の関係を考察しつづけています。2005年にロンドン・カレッジ・オブ・コミュニケーション(映画・映像専攻)を卒業、2012年にはロイヤル・カレッジ・オブ・アート(写真専攻)修士課程修了。「Does Not Equal」W139(アムステルダム、オランダ)、オーバーハウゼン国際短編映画祭(ドイツ)、「Published And Be Damned」ICA(ロンドン、イギリス)など多くの場で作品を発表。

上映作品

《テンダー・パスチャーズ》 2014年、HDビデオ、カラー、サウンド、6’05”

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