ゲンビどこでも企画公募2013

募集期間:2013年7月1日(月)〜8月31日(土)
展覧会:2013年11月2日(土)〜24日(日)

■ 応募総数 148件
■ 特別審査員 岡部あおみ、椿昇、橋本麻里

入選作品・展示風景


國本翼《BARanmal》


佐々木類《Hidden Space》


立原真理子《戸とそと》


中川洋輔+藤原直矢 / -er《TIME #02》
岡部あおみ賞


文谷有佳里《なにもない風景を眺める》


山本優美《存在の感触》
橋本麻里賞


yukaotani《Sweet Vessels》
オリエンタルホテル広島賞、観客賞


渡辺一杉《地球と月の輪郭(原寸大)》
椿昇賞

特別審査員・講評

岡部あおみ(美術評論家、キュレーター)

実力派の多くの作家の応募があった。審査員賞に選出した「中川洋輔+藤原直矢 / -er」の時計の針による痛快な幾何学作品は、広島という時間の推移に敏感な土地で魅惑的な別の力学を提示するに違いない。同様に山本優美氏の見事な陶による下着や日用品のインスタレーションも広島での展示で従来の展開により一層深度を増すだろう。またお弁当を飾る見慣れたバランを本物の草原に見立てた國本翼氏の切り絵は、日常の風景を一変させるウィットに富んでいて感銘を受けた。非常に興味深いプロポーザルでも作家に聞いてみたい要素を残すものがある。たとえば砂糖や水飴を用いるyukaotani氏はなぜワイングラスに拘るのか、建築の隅を撮影する佐々木類氏の場合、美術館だと均一な画像に収まってしまわないか、リズミカルなドローイングで応募した文谷有佳里氏は本来の音楽的素養を連動させる作品を手掛けないのか、などだ。震災以後の日本の変化は広島に新たな視線をもたらしている。社会変動への細やかな認識をもとに、参加した方々のさらなる展開を期待したい。

東京都生まれ。国際基督教大学を卒業後、パリ・ソルボンヌ大学修士課程、ルーヴル学院研究論文課程修了。現在、資生堂ギャラリーアドバイザー。

椿 昇(アーティスト、京都造形芸術大学教授)

今回の審査に当たって基準としたのが、表現者として「私から私たちへ」という姿勢を持っているかどうかという点に絞りました。理由は3・11以後地球環境と人間の生きる未来に明らかに新しいフェーズが付加されたからです。ただし、その問題に対してジャーナリスティックに表現するのではなく、あくまでも思考を促す装置として依然として有効であるはずの現代美術(?)という条件を敢えて保持した上で、ポエティックに他者に深い思索の契機を与えるものとして存在させようとしたかということです。よって美術というパラダイムから一歩でも出ようともがく表現なのか、「すでにあるかどうか自明ではなくなっている美術」という繭のなかに相変わらず浸っているのかを問いかけました。
そのような視座から選考された30人の作家のポートフォリオとプレゼンテーションを拝見し、10人の方に好印象を持ちました。それらの作品はすでに安定したアウトプットを持っており、いずれの方も将来有望であるとの認識です。もしキュレーションしてグループショウを企画するなら、手堅くまとめることが出来そうだという基準です。しかしながらすでにどこにあった、もしくは手堅いのだが静かな衝撃が伝わって来ないという残酷な観客の身勝手な視点を引用するなら、決定的な支持を与えにくいという段階にあるとも言えるのです。
そこで私が支持を表明したのが渡辺一杉さんの《地球と月の輪郭(原寸大)》という作品でした。この作品はまず異常なまでにシンプルな要素で成立しながら、個人が自然科学に立ち向かったエジプトやギリシャの人々の営為を彷彿とさせる何かがそこにあったということなのです。数十億年かけて太陽から容赦無く降り注ぐ放射線をブロックする大気や磁気によって、ようやく生命を誕生させ、その結果として70億以上のホモ・サピエンスを育んだ(?)この惑星は、彼らが発明した欲望の装置によって、数十億年かけて除去した放射線を、人類史や美術史ではなく宇宙史レベルで、北太平洋一面に流出させ続けるという結果をもたらしました。
彼の素朴でシンプルでありながら、天体の輪郭に愚直に迫る姿勢には、天然資源を食い尽くしこの惑星を消費し尽くそうとする止めがたい宿命に、個人がペン1本でどこまで肉薄できるのかという残酷な宿命の詩的解釈を感じたのです。人間の力ではどうしようも無くなったこの惑星に、ドン・キホーテのように黙々と一切の電気を用いることなく線を引き続ける彼の仕事に、月光がゆっくり影を移す夜の窓辺から静かな賞賛を送りたいと思います。

京都府生まれ。京都市立芸術大学美術専攻科修了。美術と社会の関係を考察する衝撃的な作品を発表し続け、日本の現代美術を代表する作家の一人として世界的に注目を集めている。

橋本麻里(ライター、編集者)

驚きや発見を、観客がストレートに共有できる応募作に高い評価が集まったように思う。中でも、國本翼氏による《BARanimal》は、「バラン」を切り抜いて動物と草原を表現するアイディアが、非常にクリアで魅力的。共に非結晶質であるガラスと飴を置き換えた、yukaotani氏《Sweet Vessels》の、感情をかき立てる強度も注目に値した。
審査員賞には山本優美氏の《存在の感触》を選んだ。氏の作品は、キャミソールや靴下など、多くの人にとってなじみ深い、そして容易に汚れ、ほつれ、塵に戻っていく日常の衣類=記憶のかたちを、それ以上化学的に変質することのない、物質として極めてスタティックな「焼き物」で精巧にかたどったもので、異化効果のパンチが身体の深いところまで届く。
「事例をコレクション」する段階に留まっている応募作には、そこから飛躍するためにどうすればいいか、再考してほしい。またパフォーマンス、映像系の応募作に、説得力あるものが少なかったのは残念だった。

神奈川県生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。大学を卒業後、出版社に勤務した後、日本美術を主な領域とするライター、編集者となる。

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