ゲンビどこでも企画公募2018

募集期間:2018年7月1日(日)~8月31日(金)
展覧会:2018年11月10日(土)~ 11月25日(日)

■ 応募総数 133件
■ 特別審査員 五十嵐 太郎、西野 達、原 久子

入選作品・展示風景


小笠原 周《Body building》
五十嵐太郎賞


田口 友里衣《認識する行為》
西野達賞


有川 滋男《(再)解釈:ラージアイランド》
原久子賞


進藤 篤《OASIS》


田中 さお《薄い記録》


冬木 遼太郎《思想付き通路》
観客賞


宮木 亜菜《SHEETS》

 

特別審査員・講評

広島市現代美術館のホワイトキューブ以外の空間を使い、企画を公募するということは、まだ発見されていない建築の使い方を試みる可能性をもつ。ハードはいったん完成しても、時間が経つにつれ、もしくはアーティストの想像力によって、建築家が思いもつかない活用法が出現する。今回の審査では、作品の面白さだけで見た場合、候補があまりに多くなるので、固有の空間に対して提案したり、美術館という場そのものを問いなおすような作品に高い評価を行った。そうした視点から、入選作品を振り返ってみよう。 小笠原周の《Body building》は、彫刻と構築物の関係を転倒させようというコンセプトが目を引いた。通常、構築物、あるいは台座の上に彫刻がのっているが、ここでは重量級の人頭彫刻が構築物を支え、その上にまたマッチョな男性像が設置される。まさにボディ・ビルディングだ。有川滋男は、広島市現代美術館がもつ円形の光庭から着想をえた架空の職業を創造し、空間のアフォーダンスを笑い飛ばすようなユーモアを備えている。田口友里衣は、まっさらと思われていた空間に刻まれた微細な痕跡を読み込む。建築の分野において、かつて西沢立衛が「空間から状況へ」(ギャラリー間)で試みた手法を、カラフルに、かつ豊穣に進化させたものだ。田中さおの作品は、建築の内部に記憶の家を持ち込む。進藤篤の《OASIS》は、吸水性ポリマーを使い、水を吸い込みながら、やがて縮小していく。美術館に水という危うげな要素を巧みに用いている。冬木遼太郎の《思想付き通路》は、美術館の天井にある円形のモチーフを作品において反復している。そして宮木亜菜の《SHEETS》は、自らが居住する京都から美術館までの道のりを作品に組み込む。さまざまな回路から、建築との対話を楽しめるのが、ゲンビどこでも企画の醍醐味である。

五十嵐 太郎

五十嵐 太郎(東北大学大学院教授、建築史・建築批評家)

1992年、東京大学大学院修士課程修了。博士(工学)。あいちトリエンナーレ2013芸術監督、第11回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展日本館コミッショナー、「窓学展示―窓から見える世界―」の監修を務める。第64回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。『日本建築入門―近代と伝統』(筑摩書房)、『日本の建築家はなぜ世界で愛されるのか』(PHP研究所)ほか著書多数。

私は常にアート作品らしくないアート作品を見たいと思っています。ここでその理由を書くスペースはありませんが、「新しい」ことこそアートの存在理由と言えるからです。今回の若いアーティストの作品アイデアは、彼女ら・彼らが知っている良いアート作品の外観に似せようという日本人特有の猿真似がほとんどでした。20歳30歳の若い作家の卵が、この時点で猿真似しか思いつかないようでは日本のアートの将来を憂いないわけにはいきません。成熟した現在の日本のアートシーンには「日本のゴッホ」はもう必要ないのです。

アートは常に古い美意識を破壊しつつ、同時に新しい美意識を提示しなければいけません。破壊と創造が同時に行われているものです。私が「特別審査員賞」に選んだアイデアは相も変わらず狭いアートシーンの中でしか作用しないものですが(観客の誰も美術館の汚れに興味を持つ人はいないでしょう)、他のアイデアのように「視覚的にアートに見えるように整える」という保守的な作業が省かれ、コンセプトと作品に乖離がないということで選びました。「破壊」はないが、手工芸的な作業をしていないという理由です。

西野 達
Photo : Sachiko Horasawa

西野 達(美術作家)

屋外のモニュメントや街灯などを取り込んで部屋を建築しリビングルームや実際にホテルとして営業するなど、都市を舞台とした人々を巻き込む大胆で冒険的なプロジェクトを発表することで知られる。現在はベルリンと東京を拠点に活動。シンガポールのマーライオンを使ったホテルプロジェクト「The Merlion Hotel」、2011年、NYマンハッタンのコロンブスのモニュメントを使用したプロジェクトなど。

展示場所を指定した作品プランの書類審査の場合、頭の中で出来上がった展覧会を想像しながら選考するようにしている。今回も幾度となく通ってきた広島市現代美術館の空間を思い浮かべつつ、申請書類を見ていった。

応募された多くの方たちは基本的に場所性にこだわったからといって大幅に過去作と作風やコンセプトを変えることはなかった。しかし、実際に完成した作品をゲンビで見てみたいと痛感させるような、空間に向き合って新たな何かを提示しようとするエネルギーを持つプランを選ぶことを心がけた。小笠原周の作品には爆発的な破壊力とも言える強度があったし、私が審査員賞として選んだ有川滋男のある意味ナンセンスな発想には大いに惹かれるものがあった。

昨年度の講評の記述に対する反応なのか「ヒロシマ」を意識したプランに敢えて取り組もうとする姿勢を持つ人がほとんど見受けられなかったのは残念だったと最後に書き添えておきたい。

原 久子

原 久子(大阪電気通信大学教授、アートプロデューサー)

アートプロジェクト・展覧会の企画・運営、執筆、編集、コンサルティングなどに携わる。共同企画に「六本木クロッシング2004」(森美術館)、「Lab☆Motion」(TWS本郷、2007)、「Between Site & Space」(ARTSPACE、シドニー、2009/TWS渋谷、2008)、「あいちトリエンナーレ2010」、「六甲ミーツ・アート 芸術散歩2011」、「パリに笑壷を運ぶ −現代日本映像作品展」(パリ日本文化会館、2012)など。 共編著『変貌する美術館』(昭和堂)ほか。専門は現代美術、文化政策。

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