ゲンビどこでも企画公募2017

募集期間:2017年6月28日(水)~8月26日(土)
展覧会:2017年10月28日(土)~11月19日(日)

■ 応募総数 142件
■ 特別審査員 島 敦彦、高嶺 格、難波 祐子

入選作品・展示風景


HONG YUNI《対決》
島敦彦賞


飯川雄大《デコレータークラブプロジェクト
「衝動とその周辺にあるもの」》
高嶺格賞


音で社会を変えるラボ(奥野和憲 / 滝山聖士 / 帖佐翔人)《ウォーキングプレーヤー》
難波祐子賞


濱野怜子《100》
観客賞


堀内悠希《よわいピストル》


松田るみ《ビュートレス−美術館のうちとそと−》


ユアサエボシ《GHQ PORTRAITS》


CHIE《FOPPISH GIRL −共鳴−》

特別審査員・講評

今回審査に初めて関わったが、応募作に、できあいの絵画や彫刻はなく、インスタレーション、映像、写真、パフォーマンス、さらに参加型の作品まで実に多彩な内容で驚かされた。広島の歴史や原爆にまつわる作品はもとより、さまざまなリサーチ・ベースの作品があり、近年の現代美術の縮図を見るようだった。展示室以外のスペースをどう活用するのか、作品内容とそれにふさわしい展示場所との関係も考慮に入れて、展覧会全体のバランスを見ながら審査を行ったつもりだが、同一の場所での展示作品の審査がなかなか難しかった。

島 敦彦
Photo: Nohagi Naka

島 敦彦(金沢21世紀美術館館長)

1956年富山県生まれ。1980年早稲田大学理工学部金属工学科卒業後、富山県立近代美術館、国立国際美術館、愛知県美術館を経て、2017年4月より現職。これまで、榎倉康二、内藤礼、安齊重男、小林孝亘、O JUN、畠山直哉、オノデラユキらの個展を手がけたほか、2010年には「絵画の庭-ゼロ年代日本の地平から」、2013-14年には「あなたの肖像―工藤哲巳回顧展」を担当。現代美術の動向を絶えず注視しつつ、近年は、舞台やダンス・パフォーマンスにもできるだけ足を運ぶようにしている。

全体の感想として、現在「ヒロシマ」を作品の文脈とすることの難しさを感じた。実際には、隣国の核実験が続く中、ヒロシマの象徴としての重要性は増しているはずである。しかし現実には、核兵器禁止条約交渉に日本が参加しなかったことなど、ヒロシマは文脈としてどんどん骨抜きにされており、応募者の葛藤も想像に難くない。とは言え広島をテーマとした作品にも意欲的なものがあった。 榎木陽子の町医者を通じた偶然の原爆とのつながりは、強く身体性を伴った記憶として刺激的であり、ユアサエボシの架空の進駐軍物語は、時空を超えて感情を揺さぶる可能性を感じる。また塩野太朗の陶作品は、広島の現在をシニシズムに陥ることなく可視化したものと捉えることができる。個人的には、音で社会を変えるラボの開かれた音楽鑑賞の方法、飯川雄大のささやかだがメディアに飲み込まれないためのユーモラスな提案に、本来的なアート魂を感じた。

高嶺 格

高嶺 格(美術作家、秋田公立美術大学准教授)

1968年鹿児島県生まれ。京都市立芸術大学工芸科卒業、岐阜県立国際情報科学アカデミー(IAMAS)修了。1990年代初頭よりパフォーマンスを開始し、ダムタイプの活動にも加わる。平面、映像、インスタレーション、パフォーマンスなど多様な表現手法に取り組み、社会的規範や権力構造について、アイロニーとユーモアを交えた視点で捉え直す。近年の主な個展に「高嶺格のクールジャパン」(水戸芸術館、2012年)、「ジャパンシンドローム・ユトレヒトバージョン」(Casco、オランダ、2013年)など。

今回の審査では、まずお題である展示室以外の空間と作品とが、互いに魅力を引き出し合う可能性をもつプランであるかどうかに重きを置いた。よって作品自体は魅力的だが、展示場所の選定に必然性を感じられないもの、逆に展示場所や展示方法については説得力があるが、作品自体に力が感じられないものについては、残念ながら選からもれた。一方で、広島を主題にしたプランも数多くあったが、私自身が広島出身であることもあり、安易にヒロシマを作品化しているものについては、共感を覚えることができなかった。特別審査員賞に選んだ、音で社会を変えるラボの「ウォーキングプレーヤー」は、「音」と「歩行」というシンプルな構成ながら、来館者が自らの身体を動かすことで、回廊空間とリアルタイムで生まれる作品の常に変化する音風景を気軽に楽しみながら鑑賞できる作品となることが期待される、明快なパワーを感じるプランであった。欲を言えば、例えばスピーカーの台数を増やして、階段部分など館の別の空間にも展開できれば、よりダイナミックで広がりのある作品になったかと思う。

難波 祐子
Photo: Kenichi Aikawa

難波 祐子(現代美術キュレーション)

東京都現代美術館学芸員を経て、展覧会などの企画運営をおこなうI plus Nを設立。2016年より国際交流基金文化事業部企画役(美術担当)。 著書に『現代美術キュレーター・ハンドブック』、『現代美術キュレーターという仕事』(ともに青弓社)、 企画した主な展覧会に「こどものにわ」(東京都現代美術館、2010年)、「呼吸する環礁 — モルディブ・日本現代美術展」(モルディブ国立美術館、マレ、2012年)など。札幌国際芸術祭2014プロジェクト・マネージャー(学芸担当)、ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014キュレーター、「"TOKYO"−見えない都市を見せる」共同キュレーター(東京都現代美術館、2015年)。 

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