内海慶一コラム Vol.1「ピクトさん」

「ピクトさん」を知っていますか? 名前を聞いたことはなくても、みなさんも必ずどこかでピクトさんを目にしているはずです。道を歩いているとき。駅で電車を待っているとき。工事現場の近くを通ったとき。お店で買い物をしているとき・・・ピクトさんは至るところにいます。

たとえばこれは「転倒系ピクトさん」。床が濡れて滑りやすくなっていることを、ピクトさんが自ら転んで知らせてくださっています。尻もちをついて、痛そうですね。

こちらは「頭打ち系ピクトさん」。駐車場の出入口にあるバーで脳天を強打しています。体の傾き具合から、かなりの勢いでぶつかっていることが分かりますね。実に可哀想です。

こちらは「はさまれ系ピクトさん」。工事現場の重機に体をはさまれてしまっています。ぐにゃりと押し曲げられた体が涙を誘います。

このように街のあちこちで注意を促し、危険を知らせてくれる人のことを「ピクトさん」と言います。10年ほど前に私が勝手に名付けたのですが、だんだんこの名称が世の中に広まり、知られるようになってきました。

ピクトさんという名前は「ピクトグラム」に由来しています。ピクトグラムとは「絵文字」という意味で、メッセージを視覚的に伝える図のことです。タバコの絵が描かれた「喫煙所」や、ナイフとフォークが描かれた「レストラン」などのマークを見かけることがありますが、あれがピクトグラムです。そこに登場する人物を「ピクトさん」と名付けたというわけです。

ピクトさんはいつも危険な目に遭っています。それが彼らの使命だからです。ドアにぶつかったり、崖から落ちたり、電線で感電したり、段差でつまずいたり。自らの体を犠牲にして道ゆく人々に危険を知らせてくださっているのです。この尊く痛々しいメッセージを、私たちは敬意を持って受け止めなければならないでしょう。

こうして単なる記号であるはずのピクトさんを人間だと思って見てみると、なんだかいろんな感情が湧いてきませんか。「こんなに体を張ってがんばってくれてるんだなあ」と思うと、私は胸がキュンとしてしまうのです。

「つまずき系ピクトさん」を16人まとめてご覧いただきましょう。段差があることを教えてくれているピクトさんです。

並べてみると、同じつまずき系ピクトさんでも一人ひとりに微妙な違いがあることが分かりますよね。手の挙げ方、足の開き方、体の角度、そして体型。ピクトさんを鑑賞し続けていると、だんだんこのような小さな違いが見えるようになってきます。それに気づくのもまた、楽しみの一つです。

ぜひみなさんもピクトさんを探してみてください。ピクトさんの存在を気にしながら歩いていると、見慣れた街の景色が少し違って見えてきますよ。また、なぜそのメッセージがその場所に必要だったのかということも考えながら観察すると、より味わい深くなると思います。

ちなみにこちらは広島市現代美術館の近くにいる案内ピクトさん。危険な目には遭っていませんが、暑い日も寒い日も雨の日も風の日も、毎日ひたすら歩いているようですね。

ピクトさん、いつもありがとうございます。

 

内海慶一:1972年生まれ。著作家。人型ピクトグラム「ピクトさん」、店舗の装飾テント、100円均一商品など日常のさまざまなモノ・風景を観察している。著書に『ピクトさんの本』(ビー・エヌ・エヌ新社、2007年)『100均フリーダム』(ビー・エヌ・エヌ新社、2010年)がある。

内海慶一ブログ「ぬかよろこび通信」http://pictist.exblog.jp/
日本ピクトさん学会http://www.pictosan.com/


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